--------------------------------------------------------------------------- ■IRの話題 --------------------------------------------------------------------------- 〜ドミニク・ジョーンズが語るブログ論〜 「なぜ企業取締役会はブログをやるべきか」 「取締役がブログをやらない10の理由」 −ブログが切り開く、新たな株主コミュニケーションの可能性― ---------------------------------------------------------------------------  ブログが盛んだ。新たなインターネット・メディアの登場だ。IRサイトに掲 載される「社長日記」やIR担当役員のブログも注目度が高い。他方、こうした ブログの魅力を理解しても、あまりの勢いに戸惑いを感じるIR関係者も少なく ない。そんな中で、IRウェブリポートのドミニク・ジョーンズ氏が、『なぜ企 業取締役会はブログをやるべきか』、『取締役がブログをやらない10の理由』 という2つのリポートを同時に発表した。  取締役会と株主とのオープン・コミュニケーションの視点からブログの可能 性をポジティブに論じた内容は、「IRブログ」を考えるIR現場に多くの示唆を 与える。 ▼急増するブログ  ⇒「経済新語辞典2006」(日本経済新聞社)が採録  総務省調査の数字を見よう(http://www.soumu.go.jp/s-news/2005/pdf/050517_3_1.pdf)。 3月末のブログ開設者は335万人で、ネット人口の2.1%。月に1度は更新するブ ロガーは95万人。月1回以上見る閲覧者は1,651万人に達する。2007年3月末には 開設者が782万人、閲覧者はネット利用人口の3割強の約3,455万人に倍増すると 見込んだ。今年の「経済新語辞典2006」(日本経済新聞社)は、ブログを初め て採録し(503ページ)、「ウェブ(Web)上での記録(Log)を表す造語『ウェ ブログ(Weblog)』が縮まった呼び方」だと、その説明を始めた。 【表1】ブログとは何か (http://www.daiwair.co.jp/hyou/051028-01.gif)  米国では、ネット検索最大手のグーグルが、ブログに特化した検索サービス をすでに始めた。ブログ向けの専用サイトにキーワードを入力し、検索するこ とになる。ウェブやイメージ検索と同等の扱いとなる。  日産自動車の「Cube Blog」(http://blog.nissan.co.jp/CUBE/)をはじめ、 主だった車サイトはブログ・スタイルが当たり前だ。宝酒造の「なんでも健康 博2005 TaKaRa BLOGパビリオン」(http://takaraexpo.jp/)、資生堂の「ヘ ア&メーク担当の内緒話」(http://blog.shiseido.co.jp/10years/archive/2005/10/19/754.aspx) まで、業界を問わず、ブロッグ発信がますます勢いをつけてきた。そのため、 新しい広告市場としても期待され、ネット通信販売と提携する「アフィリエイ ト」も視野に入ってきた。 ▼ブログの魅力  ⇒「速い・簡単・双方向」  何がブログの魅力か――。ホームページや掲示板と対比してみよう。「ホー ムページは、自分で作成したページ(コンテンツ)を一方的に発信するのが基 本構造で『瓦版』に近い。一方、電子掲示板は複数の利用者が意見を交換する 『会議室』だ。ブログはその中間的な位置にあり、個人が投稿するログを媒体 にしながら、意見交換やネット上で他人同士をつなげている」(「ナビ君のに ゅうす解凍=つながる日記『ブログ』信濃毎日新聞2005年6月3日」。  ブログには「コメント」や「トラックバック(TB)」という機能が用意され ている。「コメント」はブログに感想を書き込む機能で、「トラックバック」 は他人のブログにリンクする機能だ。  先ほどの記事が続ける。「インターネットのサイトで、他サイトにジャンプ するリンクは知っているよね。普通のリンクは、サイト作成者自身が、訪問者 向けに自分のサイトから外部につながるように設定する。トラックバックとは、 ログに設けるリンクなんだけれど、リンクを設けるのは別のブロガー。これが 『逆リンク』と言われているんだ。別のブロガーが、自分の記事で引用したり、 言及したりした際にトラックバックするのがルール。見る人は、その話題を別 の人がどう考えるか、トラックバックをたどって知ることができる」(同)。  「ログが追加されると、『更新しました』という信号を自動で出すようにな っている。信号はネット上の特殊なサーバーに蓄積され、いつどのブログが更 新したかが分かるんだ。作成の簡単さ、双方向性、更新の迅速さがブログの特 徴といえる」(同)。  いわば、ホームページに掲示板と相互リンクの2機能が備わったといってい い。インターネット空間の新たな回遊コースが登場しているのだ。これに RSSを取り込んで情報の浸透力も大きい。 ▼注目度が高い社長ブログ:  「社長日記」(ライブドア)  「渋谷ではたらく社長のblog」(サイバーエージェント)  「松本大のつぶやき」(マネックス・ビーズンズ証券)  公開企業の社長もブログを書いている。中でもライブドアの「社長日記」 (http://blog.livedoor.jp/takapon_ceo/)は有名だ。「はっきりいってビジ ネスもプライベートもごちゃまぜにせざるを得ない生活を送っているため、ほ ぼすべて私のスケジュールは公開されています」(2005年10月6日)というほ ど、社長の毎日が書き込まれている。ライブドアの「社長日記」は、「企業か らのIR情報」(http://finance.livedoor.com/ir/4753/ir-news.html)として 「IRニュース」「決算短信」「IRカレンダー」「有価証券報告書」「会社説明 会資料」「公告」などと同等に掲載されている。アクセス数は膨大だ。  社長ブログでは、サイバーエージェントの「渋谷ではたらく社長のblog」 (http://shibuya.ameblo.jp/)は単行本にもなった。先ごろ東証1部に上場し たマネックス・ビーンズ・ホールディングス証券。毎日発信するメールマガジ ンに掲載される同証券社長による「松本大のつぶやき」は、翌日の同証券のホー ムページ「マネログ」(http://www2.monex.co.jp/monex_blog/index.html) に転載される。  この5月、大手生保のT&DホールディングスもIR担当の常務取締役によるブ ログ「T&Dブログ」(http://www.tdblog.com/)がスタートした。「IR情報」 の「個人投資家の皆様へ」のサイトにほぼ毎週1回のペースで更新する。これ も上場企業の「IR情報」だ。こうしたIRブログの登場に、かつてオークネット の「IR情報」サイトに連載されていたIR担当者の「IR日記」 (http://www.aucnet.co.jp/ir/diary/bknum/diary02d.html)。昨年、当のIR 担当者が退職してコンテンツから消えた。時代もあるのだろう、この「IR日記」 はブログではなかった。先ごろ、企業のホームページではなく「新興市場に上 場する某企業のIR担当責任者の赤裸々?な告白」とキャッチを冠した「あい あーる.com」(http://blog.livedoor.jp/hiro_ir/)が現れた。  社長から現場のIR担当者まで、IRブログが出揃った格好だ。 ▼ドミニク・ジョーンズ氏のリポート:  「なぜ企業取締役会はブログをやるべきか」  ⇒ブログは取締役会/株主コミュニケーションのプラットフォーム  今年の1月11日、IRウェブリポート(http://www.irwebreport.com)のドミニ ク・ジョーンズ氏がABCのパム・アグニュー氏と組んで、『なぜ企業取締役会 はブログをやるべきか』(http://www.irwebreport.com/perspectives/2005/boardblogs1.htm#) と題するリポートを発表した。  すると、翌日、ビジネス・コミュニケーション/テクノロジーを中心にブロ グを書いてきたネビル・ホブソン氏(http://www.nevon.net/)が 「ブログで株主向け広報を改善せよ」 (http://www.webpronews.com/news/ebusinessnews/wpn-45-20050112ImproveShareholderRelationsViaBlog.html) のなかで、早速、このリポートを取り上げた。「昨日、IRウェブリポートにと てもいいリポートが載った。なぜ企業の取締役は株主とのコミュニケーション の改善に向けてブログを立ち上げるべきかについてを論じている。企業のコミ ュニケーション担当者、IR担当者、最高財務責任者(CFO)は、誰でもこのリ ポートを一読するべきだ」と。またジョーンズ氏が同時に発表した 『取締役がブログをやらない10の理由』 (http://www.irwebreport.com/perspectives/2005/boardblogs2.htm)も読むべきだと言及した。  ホブソン氏が続ける。「(ジョーンズ氏は)取締役の視点に立って、このリ ポートを書いている。ブログが現在の取締役会/株主のコミュニケーションに 信頼できる土台を用意する、というのだ」。リポートの冒頭の「適切に運用さ れれば、ブログは取締役会と株主に互いに真剣に問題を考える透明な土台を用 意する。取締役に信用できる対話ができ、低コストで効率の高い手段をもたら し、役員に様々な見方をもつ広範な株主からフィードバックが得られる」とい う一文が引用された。ブログをこの視点から高く評価している。  「コンファレンス・ボード」(2005年1月4日)の調査 (http://www.conference-board.org/utilities/pressDetail.cfm?press_ID=2546) は、現在、株主総会が、リラックスした気分で真剣な議論を行なうという点で、効 率の高いフォーラムではないという米国やヨーロッパの取締役会の不満点を論じ、 「コンファレンス・ボードは株主向けコミュニケーションにもっとウェブを活 用し、投資家と企業経営者が長期的な重要問題を検討できるフォーラムをつく り出す」など提言を行った。「ウェブIR」のコンサルタント、ジョーンズ氏に とって「当然の帰結」だろう。 ▼取締役会ブログの可能性  ⇒コンタクトを広げ、ストーリーをコミュニケート  『なぜ企業取締役会はブログをやるべきか』で、ジョーンズ氏がキッパリと 言い切った。「役員のブログは、真面目な非公式の対話という点からすると、 費用もかからず、使い勝手は簡単、基本的に透明なメディアです」。  ジョーンズ氏が説明する。「役員は、閉じられたドアの向こう側のガバナン スが、実行すべきガバナンスではない現実を受け入れなければなりません。企 業と取締役会は、自分が外部の人たちに向かって自分を語らないかぎり、自分 の行ってきた改善や努力に対する信頼を勝ち取ることはないのです。取締役会 はこれまで以上に株主にアクセスしなければなりません。インターネット、と りわけ、ブログでのアプローチは、その実現にベストな方法です」。  ジョーンズ氏はブログを肯定的に評価する。「役員のブログは費用もかから ず、技術的に簡単ですが、受け入れられたルールの下でウェブで双方向に対話 をする人にとってはとても正直な方法です。ブログ・サイト経由で取締役会は、 保有株式の多少に関係なく、自社の動向に関心をもつ人たちのデスクトップと ダイレクト・リンクができます」。  企業をめぐる、これまでの経緯も、ブログの出現を歓迎している。「取締役 会ブログは、元SEC(米証券取引委員会)委員長のリチャード・ブリーデン 氏がワールドコム報告書で提言し、現在、MCIで実際に行われている、エレク トロニックのタウンホールのようなものです。ブログはいつでも株主に呼びか けたり、取締役会での重要な進展に関して情報伝達できることになる。取締役 会が、取るに足らない年間コストで、株主に自分たちが何を行っているのかを 知ってもらうには、とても効率のいい方法です」。 ▼浸透する役員ブログ:  ゼネラル・モーターズ(GM)  サン・マイクロシステムズ  独SAP  ジョーンズ氏によれば、「取締役会のブログは、その響きがもたらすほど、 ラディカルなアイデアというわけではない」という。米国での企業ブログはす でに、いくつかの有力企業から発信されている。例えば、2005年に入ってゼネ ラル・モーターズ(GM)のボブ・ラッツ副社長(現副会長)はブログ (http://fastlane.gmblogs.com/)を始めた。それは「サン・マイクロシステ ムズのジョナサン・シュワルツ氏のブログ(http://blogs.sun.com/jonathan) を追ったものだ」とジョーンズ氏は語る。また6人の取締役がブログを掲載する 独ソフト大手SAPのブログ・サイト (http://www70.sap.com/community/pub/blogs.epx?logonStatusCheck=0)を 事例として紹介する。  そして「『Tell Shell Forum』 (http://www.shell.com/home/tellshell-en/html/iwgen/tell_shell/app_frame_tellshell.html) をウェブサイトに用意するシェルのような将来を考えた企業のディスカッショ ン・フォーラムほど、ブログはラディカルではない」と。ここでは、ウェブで の株主コミュニケーションの改善をめざして、株主の「瑣末ではない」質問と、 企業による回答をすべて掲載するという提言もある、というのだ。 ▼容易なコメントの運営・管理  ブログ向けのソフトウェアを採用すれば、取締役会は質問の受付・回答のプ ロセスを難なく運営できる。取締役会はブログ経由の質問やコメントに関する 手続きルールを作成し、これを実行する。ただし、「質問は事前審査もなく掲 載するか、掲載承認のための順番待ちに投げ込むか。そのオプションが取締役 会に残る」と、ジョーンズ氏は言う。  そして続けた。「有効なIDコードをもつ株主だけが質問できるサイトを立ち 上げれば、システムはオープン・メールやEメール・フォーマット経由で質問を 受け付ける現在のやり方よりも、さらに効率が高くなります。一般のトラフィ ックから各社のウェブサイトに至る時、間違って着信する質問も少なくなりま す。取締役会はこのコメント・システムを直接、運用するか、外部に委託し、 各役員は株主の質問を事前チェックなしにアクセスする。株主にしてみれば、 取締役会に検閲なしの質問が届いていることが分かり、信頼の度合いはさらに 高まります」と、ブログのもつキー・ポイントを忘れない。 ▼トラックバックで、  コミュニケーションは正直に、透明に  ジョーンズ氏の議論は続く。「もちろん、取締役会は、どんなコメントを許 容し、許容しないのか、その点の判断をしなければならないので、悩む場面が あるかもしれない。株主によっては、取締役会の運営なので、議論の公開性に 懐疑的な人もいるだろう。しかし、ブログ・メディアはトラックバックによる 議論で、取締役会の運営に対するカウンターバランスを用意することになりま す。トラックバックで、ブログの開設者、この場合、ブログを開設している株 主は貴社のサイトから関連するサイトにリンクを張っているのです」と。  トラックバックを説明する。「例えば、カルパース(カリフォルニア州職員 退職年金基金)が貴社の取締役会ブログに載っている何かに返事を書くと決め れば、カルパースのブログにコメントを掲載し、トラックバックする。すると、 カルパースが貴社に関連する掲載をしたと貴社の取締役会ブログで株主に発信 することになるわけだ」。  「自分のブログからトラックバックを抹消したり、カルパースのコメントを 拒んだとしても、ウェブサーチしたり、他のトラックバックを追っている人な らどこかにカルパースのコメントを見つけるだろうから、トラックバックは透 明に関する保険契約なのだ。ブログで通常の情報開示を行っても、取締役会は なんら案じることはないのではないか。ブログの経験でいえば、取締役会ブロ グほど運営のいいものはなく、手におえないような行動はほとんど見られない。 このことは、とりわけ、トラックバックのコメントについて言える。 自分や自社のサイトに返事を掲載する時は、説明責任があるので、これまで以 上に自分たちが何を言っているかについて配慮するようになったようだ」。 ▼取締役会は何をブログで発信するか  ブログだから「何でも好きなことを」発信すればいい。それでも、取締役会 ブログは「取締役会やその委員会」の活動に関する投資家の情報更新となるし、 また、各種の問題に関する株主から情報を入手することに利用されることもあ るだろう。株主から得た情報で株主感情をよく理解した判断に結びつくという わけだ。  ジョーンズ氏は「役員と投資家のコミュニケーションに格好なオープン・デ ィスカッションのテーマとしては次のものがある」と【表2】のように列挙した。 【表2】役員ブログのテーマ候補 (http://www.daiwair.co.jp/hyou/051028-02.gif)  「じっさい、閉ざされたドアの向こう側で機関投資家と議論があった問題はす べてここに含まれる。ブログだけが、すべての株主がディスカッションへの参 加をもたらす。株主は機関投資家と取締役という双方の議論を読んで、詳しい 情報を踏まえた結論に到達することになる」。これがオープン・コミュニケー ションというのだろう。前出の「コンファレンス・ボード」が年次株主総会の 将来に関するリポートに盛り込んだ目標をまさに達成するものだ。 ▼「公平開示規則」はクリアしているか  ジョーンズ氏が断言した。「取締役会コミュニケーションの法的リスクはい つも問題となるが、取締役がブログ・プラットフォームを利用したウェブサイ トを立ち上げることに、現行の規制では問題なく、支障はない」。なぜか――。 「ブログは誰でも見られるし、RSSと呼ばれるテクノロジー経由で、未完のシ ンジケーション・システムに沿って、アクセスが可能なので、ブログは取締役 が選択的に重要情報を開示し、公平開示規則の違反に抵触するリスクを減少さ せることになる」からだ。  「まだある。誰でもアクセスできるブログを立ち上げた結果、取締役会と株 主との非公開ミーティングが減少したとしても、選択的開示の機会は少なくな る。というのは、情報はどんな株主にも同時に明らかにされているからだ。必 要なのはRSSのフィードバックの用意をすることだ」。 ▼議決権行使アドバイザー変更の可能性  ⇒ISSやグラス・ルイスの将来は?  ブログへの参加者を法的に認められた株主に限定することで、ブログは取締 役会と株主とがバーチャルにお互いを見直す非公式な方法を提供するなど、ブ ログ・テクノロジーはきわめて効率の高く信頼できる方法を提供できる。これ によって、「ブログによって、多くの取締役会は株主にもっと近づき、主要な 問題で取締役会の立場や見解を説明し、オープンで規則に合致したフォーラム が出来て、取締役会と株主との直接的なコミュニケーションの機会が用意され る」。  この結果、「株主はすべてのステークホルダーの議論や立場にアクセスする ので、結論を出すに当たって、これまで以上に情報が入ることになる。これは、 取締役会も株主も問題に関する地合いを図る手段を手にしたともいえるので、 ISS(インスティチューショナル・シェアホルダー・サービシーズ)やグラス・ ルイスのような議決権行使アドバイザリー会社が、現在、機関投資家の議決権 行使の決断で示す影響力が減少することも考えられる」と、ジョーンズ氏は大 胆な予測を明らかにした。  結局、ブログによるオープン・コミュニケーションは、役員と自分たちが代 表する株主との真面目なオープン対話につながり、取締役会に対する信頼を高 める。それは最後は、役員、経営者、従業員、株主、その他のステークホルダー の間に今まで以上にすぐれた関係に結びつく。その点で、取締役ブログは「グ ッド株主コミュニケーション・プログラム」と同じといっていい。 ▼もう1つのリポート:  「取締役がブログをやらない10の理由」  2005年1月11日、ドミニク・ジョーンズ氏は、これもABCのパム・アグニュー 氏と連名で「取締役がブログをやらない10の理由」 (http://www.irwebreport.com/perspectives/2005/boardblogs2.htm)を書いた。  取締役がブログをするとか、同じ様なウェブ・テクノロジーを活用して株主 と直接コミュニケーションするというアイデアは、ちょっとビックリするかも しれないが、「当然の進展だ」として、「ブログをする必要はないという気持 ちから取締役が持ち出す論点」を挙げ、1つひとつにコメントを加えた。その 概略は次のとおりだ。 【表3】ドミニク・ジョーンズ「取締役がブログをやらない10の理由」 (http://www.daiwair.co.jp/hyou/051028-03.gif) 〔1〕取締役会がブログをしならなければならないという法律はない。  なぜ、これ以上の潜在的なリスクに向かうのか?  ⇒取締役会のブログは取締役会の管理下にあるウェブサイトである。取締役 会と株主との間の直接の非公式コミュニケーション――企業経営者によるフィ ルター(評価・分析)がない――を可能にするものであり、取締役会は自分た ちが代表する人々の視点をよく理解して、これまでよりも優れた決定に資すこ とができる。また、自分たちが裁判に提訴されかねない悪しき決定を行なう取 締役のリスクを軽減することになる。 〔2〕わが社のカルチャーは決して人に先んじて採用するのではなく、後から  追っていくというものである。だから、同業他社の取締役会がブログをやる  まで待って、その後で始める。  ⇒早く実行すれば、いち早く成果を得る。すでに素早くブログ発信した企業 も後発の企業とは時間の落差はほとんどない。ブログ発信がない場合、株主に まったく無責任だと見なされるだろう。じっさいブログは、やらない方のリス クがもっと高い。「ノー・コメント」と同様、やらないことは、貴社は隠そう としているとか、何かを隠蔽しているといった見方に結びつく。 〔3〕ブログは新しく、大きな変化であり、テクノロジーは複雑である。  よく理解するためには時間が必要だ。  ⇒テクノロジーの利用は速く、簡単、容易で、新奇なことを怖がることはな い。ただ株主――この人たちに説明する責任がある――に向けてブログを発信 すればいい。 〔4〕もっと手続きが必要だ。社内でも社外でも、いったい誰がプログラムを  担当し、運用するのか?承認手続きは?誰の予算が当てられるのか?  ⇒ブログは簡単で、安価なテクノロジー。もし取締役会に誰かタイプができ てインターネットにアクセスできる方がいれば、ブログに情報を載せることが 可能。もちろん、特定のプロトコールを決めたりすることは必要だが――。株 主IDを取り込むために、そこらのブログ・ソフトウェア・プラットフォームを カスタマイズするのにかかるコストは小額だ。取締役会が全面的にオープンな アプローチを採用する場合でも、コストが一切かからない場合もあるだろう。 できれば、ブログは取締役会が直接、運用するべきだが、社外の企業に外部委 託したり、既存の社内体制で運用することも可能だ。その場合、一番多いのは、 IR部門やPR部門、またメディア/ウェブ部門から情報インプットを受ける企業 セクレタリーとなるだろう。 〔5〕取締役会の誰が取締役会に代わってブログを行なう‘承認’を得るのか?  もし取締役会に意見の違いがあれば、どうなるのか?  どのようにして公正に取締役会を代表するのか?  出来の悪い役員から取締役会や企業のブランド評価は何が守ってくれるのか?  ⇒取締役全員にその見解を明らかにする権利があるべきだ。しかし、非常勤 役員議長や首席独立役員には取締役会に代わって話す権利がある。委員会議長 は、全会一致があれば、委員会に代わって文を作成することができます。もし、 問題によって異論があれば、異論のある取締役は、取締役会の多数意見と並ん で自分の見解を申し出る権利があって然るべきだ。もしも取締役会に危険な人 物がいるなら、そうした人たちに発言を促して、株主は問題に関する結論が出 せることになる。 〔6〕どれぐらいの時間がかかるのか?  48時間以内に投資家に立ち戻るために、ブログはどれほど実際的か?  ⇒ブログを立ち上げた当初は少し時間がかかるが、長期的には現行の株主通 信やミーティングよりも少なくてすむ。どれくらいの時間で返事をするかに関 しては、方針を作成する。ブログ・コミュニティの誰かがブログは毎日書かな ければならないと言うだろうが、これは、役員会ブログには当てはまらない。 皆さんのサイトは何か特別な問題などについて、リポートしたり、株主にイン プットしたい時に更新すればいい。 〔7〕取締役会メンバーの各人のエゴは大きい。  「エーッと、A取締役がブログができるのなら、私もブログをやりたい。私 たちはみな同じ取締役会メンバーだ」。  ⇒各取締役は株主に対する説明責任があり、望むなら「コメント」や公式の 掲載でモノを言うべきだ。 〔8〕もし取締役会がもっとコミュニケーションし、そのためにブログを活用 用するなら、企業の他の部門では、どんなポリシーなのか?  どんな状況なら、社員はブログが承認されるのか?  ⇒ブログを取り込むために、社員行動マニュアル/コード、法令順守手続き を全面的に更新しなければならない。社員1人ひとりが家庭での自分の時間に ブログする権利があると思う。但し、ブログ発信が守秘義務や重要な情報を保 護する現在の雇用契約に反しないという条件付きでだ。企業が所有するブログ 経由で勤務時間にブログをしているマーケティング/セールス、PR/IRの人たち に対して、特別な許可を用意したい。 〔9〕これまでにも株主と面談し、問題を論じているではないか。  こうした議論をオープンにしなければならない理由がわからない。  ⇒取締役会ブログはなんでもありだ。現在、最大で最強の投資家だけが取締 役との面談を用意されている。今後も、こうしたルートのある人たちとの非公 開ミーティングをもつことになるだろう。株主は自分たちの意見を株主全員に 見てもらうためにブログを活用したいと思う。取締役会はブログ採用、アクセ ス、先端的な株主コミュニケーションを避けているのだ。 〔10〕いったい、どんな理由で、私たちを批判する人たちのためにフォーラ  ムを提供するのか?  ⇒オープン・コミュニケーションは批判の減少に結びつく。法律・規則に即 して考えず、考えの至らない見解の株主も実態があきらかになる一方で、取締 役会も批判に前向きに取り組んで株主全員に説明責任を果たし、多様な意見を 尊重する姿勢を示し、なぜ取締役会が個々の問題に特定の立場をとってきたの か、その理由の経緯を明らかにすることにもなる。  2つのリポートでジョーンズ氏の指摘は、IRブログを考える上で示唆に富ん でいる。IRブログの立場から、「なぜブログをやるべきか」「ブログをやらな い理由」を求め、ブログ発信にいたったのか、断念したのか――。そして、然 るべき社内の手続きは踏んでいるのか。「開示委員会」の承認は取り付けてい るのか。  大流行のブログ開設の中で、IRブログを「適切に」運用する。それが課題だ。